雪国で走行するトラックの画像「積雪路面やアイスバーンなどで、大型トラックがスリップのため前に進まない…….」そんな光景がよく見られますが、これは摩擦係数が低く滑りやすい路面で起こりやすい現象です。こうした発進時のスリップやスピンを防ぐために搭載されるのが、「ASR(アンチスピンレギュレーター)」と呼ばれるシステムです。

一般的には中型以上のトラックで搭載されるシステムですが、外国車など普通乗用車でも安全装置として採用されることがあります。

ASR(アンチスピンレギュレーター)の仕組み

滑りやすい路面で停止状態からアクセルを踏み込むと、本来は車体を前に進めるはずの駆動輪がスリップします。さらに余計にアクセルを踏めば踏むほどスリップは大きくなり、タイヤと路面のグリップ力が減少するため車は前に進めません。

とくに上り坂などは、グリップ力の喪失で安定性を失った車体が後方に滑り落ちてゆくケースもあります。そんなときASRは、駆動輪のどちらか一方がスリップした場合にセンサーでこれを検知し、空転している方の車輪にブレーキをかけて駆動力をコントロールすることで、過大な駆動力を抑制しグリップを回復させる働きをします。

両輪ともにスリップした場合には、エンジンの制御によって駆動力を調整する機構も備わっています。

中型以上のサイズのトラックは、車体の長さや重さが走行の負担になりやすく、スリップによる安定性の喪失が深刻です。そして駆動輪にかかる負荷は通常、停止状態からの発進でもっとも大きくなります。

これを機械制御でサポートするためのシステムがASRであり、低速走行時に作動するよう作られたものなので、中・高速走行時には働かず、無理な運転を助けるものではないことに注意してください。

一般車両に搭載されているTCS(トラクションコントロールシステム)

乗用車に搭載されるシステムにも、ASRと同様の働きをするものがあります。

「TCS(トラクションコントロールシステム)」と呼ばれるこのシステムは、一般走行時の安全確保はもちろん、スポーツ走行の効率を高める目的でも使われています。チューンナップされたハイパワーのスポーツ車両は、発進時に爆発的な加速を得るため駆動輪の負荷が非常に大きくなります。

これを制御して加速効率を良くすることがまず第一の目的で、2つ目は、コーナリングの安定です。

高速域でのコーナリング中に駆動輪がスリップすると、後輪駆動車の場合、車体は一気にバランスを崩してスピンしてしまいます。また駆動と舵角操作の両方を前輪で行う前輪駆動車の場合は駆動輪がスリップすることによりアンダーステア(ハンドルを切っているにもかかわらず直進してしまう状態)と呼ばれる状態に陥ってしまいます。

これを改善して安全性に繋げ、なおかつコーナリングスピードを維持するために重要な機能なのです。

普通車に搭載されているTCS(トラクションコントロールシステム)の役割

  • FF(前輪駆動車)の場合には、前輪のスリップによるアンダーステアを抑制し、車体がカーブの外側にはみ出して行こうとする動きを抑えます。
  • FR(後輪駆動車)では、スリップした後輪が遠心力によって外側へと振りだされ、巻き込むようにスピンするのを防ぎやすくなります。

北海道や東北の豪雪地帯で効果絶大のASR

北海道や東北など、雪が多くアイスバーンが発生しやすい寒冷地では、発進時のスリップによる渋滞や事故が多発する傾向にあります。

慣れたドライバーなら、アクセル量を調整することで空転を抑えようとすることもできますが、運転経験や車種によっては自力改善が難しい場合もあります。

ASRはスリップを前提として作られたシステムなので、とくに雪が多くなる地域ではその効果が絶大です。

雪で立ち往生するトラックの画像ASRなしの車両で走っていると、発進時のスリップからの回復には数秒程度かかることも日常茶飯事ですが、ASR搭載車両なら、アクセル踏み込みからわずか1秒ほどでスムーズに車体が動き出すため、いつまでも走りだせずに後続車を止めてしまう… といったことも少なくなります。

北国の冬場で多く見られる一般道の渋滞は、悪路による速度制御や吹雪などの視界不良のみならず、大型車の発進時のスリップが徐々に波及して引き起こされるケースも多いのです。

アイスバーン以上に注意すべき、寒冷地特有の路面… それが「ミラーバーン」。積雪が少なく、溶けだした雪が夜間の急激な冷え込みによって凍結するこの現象は、一見すると路面の一部が鏡面化したように見えるのが特徴です。

日中であれば見分けやすいのですが、暗い夜間には乾燥路面と凍結路面の区別がつきにくいことがあります。アイスバーンよりもさらに滑りやすくなっており、さながらアイススケートのリンクのような状態にあるため、大型車両にとってより脅威となることは言うまでもないでしょう。

アイスバーンやミラーバーンに傾斜が加わると、どんな緩やかな角度といえど発進の難度は急激に高くなります。これは停止状態からの加速の負担が増加する一方、前後方向への重心移動の不安定さが増すためです。

縦に長い車両やトレーラーなどの場合、スリップ状態が続くことで車体全体の安定性が損なわれ、左右に滑り出すことで周囲に衝突するような危険も出てきます。傾斜状態はこうした車体の横振りを助長させ、時に重大事故を招く要因ともなります。

スムーズな発進と事故の防止にも繋がるASRは、単なる発進加速の補助以上に大きな役割を果たすと言えるでしょう。

ただしASRオンで深い轍や窪みなどにはまると、充分な勢いが得られず車体を揺すりにくくなるため、脱出しにくくなることがあります。そのため時と場合によっては、あえてASRを切る選択肢もあることを覚えておきましょう。